近年の電子論計算法の目覚ましい発展は、実験では決して測定できない熱力学的物性値を人工的に作り出すことを可能にしました。私たちはこの手法を用いて第一原理計算ベースの基底状態解析を行い、目的の相が他の相に対して有する相対的安定性を計算する手法と準安定性を克服する方法論の開拓に取り組んでいます。具体的には、遺伝的アルゴリズムによる構造探索により基底状態での安定相を探索し、その自由エネルギーに対する温度依存性を導入することで、準安定状態を含めた有限温度での相平衡を固溶体、液体も含めて計算します。またその結果の実験による確認も行います。これにより、これまでせいぜい純物質にとどまってきた理論状態図の研究を、一気に多元系にまで拡大して議論することが可能になります。このような手法で新たな相の出現を理論的に予測する手法を確立できれば、材料分野に広く利用されるツールとなることが予想され、材料学に対する大きな貢献が期待できます。